2012年5月31日木曜日

「国民の読書推進に関する協力者会議」報告書 「人の、地域の、日本の未来を育てる読書環境の実現のために」平成23年9月


読書推進を考えるにあたって、

その根拠となっているもの(法令など)はなんだろう?と調べていると

少し前にこんな報告書が発表されていたのを見つけました。

読んで内容をまとめてみることにします。



国民の読書推進に関する協力者会議」(H22.7~)


はじめに


思考力・言語力の低下が懸念される近年、


以下の様に読書推進の動きが盛り上がってきていた。





平成13年 「子どもの読書活動の推進に関する法律」制定

平成17年 「文字・活字文化振興法」制定

平成19年 「学校教育法」の一部改正

義務教育の目標に関する規定に「読書に親しませ」との
文言が追加された

平成20年6月 「国民読書年に関する決議」採択

(平成22年を「国民読書年」とすることを決定)




「国民読書年」の活動の一環として、

平成22年7月に「国民の読書推進に関する協力者会議」が設置され

本報告書は、平成23年9月に発表された。




第1章なぜ今読書が必要なのか




読書が「思考力、判断力、表現力、コミュニケーション力など」を育むということはよく言われる。

なぜあらためて今、それが必要となってくるのか。




「21世紀の社会は、自ら考え判断できる自立した 個人の連帯により支えられるものであり、

そうした個人の育成と協働性の涵養のために、 読書は欠くことのできないものである。」





その根拠は、




「近年、様々な社会的課題を「官」だけに任せるのではなく、

国民、企業やNPO等の 事業体などの当事者が自発的に協働し、解決することが期待され、

「新しい公共」の実 現への気運が高まっている。」





読書により、そのために必要な批判的精神と、問題解決のために必要な知識・技術を

得ることができるということである。




さらに




「知識が政治・経済・文化をはじめ社会のあらゆる領域で基盤となり重要性を増す「知 識基盤社会」が到来し、

個々人の「知」の総和こそがその国の力となり、国の在り方自 体も規定するようになる中で、

読書は、個人が自己の能力を磨き、生活や職業に必要な 知識・技術等を生涯にわたって継続的に習得するとともに、

社会が新しい価値を創造す ることを可能とし、国際競争力を高めていくために不可欠な、

国の文化的インフラと位 置付けられるべきである。」





(長・・)




読書により個人の知的レベルがあがり、結果国の知の総和がふえ、競争力が高まる、ということらしい。




さらに、読書そのものが喜びをもたらすこと、

23年3月11日の東日本大震災を受けて今後の生き方を

再考・熟考する必要のある現代の日本人にとって

読書がこれまで以上に必要であることが説かれている。







第2章読書環境・読書活動の現状




<出版>


☆出版点数・販売金額・書店数など、いずれも縮小の傾向がある。

↓データ↓

平成22年 書籍新刊点数 74,714点 前年比4.9%減

平成22年 書籍・雑誌販売金額 推定1兆8748億円 6年連続下落 ピークの平成8年より30%減

平成22年 書店の数 15,314店 10年間で3割減 ※一方で新古書店は増加

(「2011年版出版指数年報」(社団法人全国出版協会・出版科学研究所)より)


<図書館>


☆図書館数・貸出数は増加し、イベントの開催やサービスの充実もみられる一方で

資料費・専門的職員は減少し、非正規職員やボランティアが活動を支える側面もみられる。


↓データ↓

平 成20年 図書館数 3165館 昭和38年以降増加(町村立は不十分)

平均職員数 10.3人/館 (うち専門的職員 4.6人)

ボランティア採用館 2110館

指定管理者制度採用 203館/3140館(公立図書館) =6.5%

平成19年度 貸出冊数 約6億3千冊 (平成16年度比 8.8%増加)


(文部科学省「社会教育調査」(3年ごとに調査)より)



平成22年度 都道府県立資料費予算額 平均4562万円/館 市町村立 平均854万/館 (減少傾向)

(「日本の図書館」(日本図書館協会)より)


<学校>


☆教育課程における言語教育・読書活動推進が強調され

平成19年度~23年度 には「学校図書館図書整備5か年計画」 として 

「「学校図書館図書標準」を満たすため毎年約200億円の措置がとられたが 

専任の学校司書や蔵書数など、制度面の整備はまだまだ進まない。



↓法改正等↓

平成19年 「学校教育法」改正

(義務教育の目標に関する規定の中に、「読書 に親しませ」という文言が盛り込まれた。)

幼稚園教育要領 改正(平成21年度より実施)

(言葉への感覚を養うため絵本や物語に親しむことが盛り込まれた。)

学校指導要領 改訂 (小学校 平成23年度 中学校 平成24年度 高校 平成25年度より実施)

(「言語活動」の充実がうたわれている。)


↓データ↓   

平成22年度 司書教諭の設置率 11学級以下の学校では2~3割

学校司書設置率 小学校 44.8%、中学校46.2%、高等学校69.4%

平成21年度 「学校図書館図書基準」達成率 小学校50.6%、中学校42.7%

公立学校図書館蔵書増加数 約710万冊

☆学校図書館費 約158億円 3年連続増加 

平成22年度 「朝の読書」実施率 小学校87. 4%、中学校81.9%、高等学校32.7%

(文科省 平成22年度「学校図書館の現状に関する調査」より)
☆学校図書館費は文部科学省初等中等教育局児童生徒課調べ




<大学図書館>



☆資料費確保が困難な中、電子ジャーナル経費が増大し、

予算を逼迫させている。

多くの大学で「専門性を有する人材の養成・確保」が課題として認識されている。

↓データ↓

平成21年度 資料費合計 約745億円(前年比0.1パーセント減)(総経費比1.1%)

運営費合計 約866億円で(前年比1.4パーセント増)(総経費比1.3%)



平成21年度 電子ジャーナル総経費 約208億円(前年比12.4パーセント増)

※洋雑誌の総購入種類数は減少傾向


(文部科学省「平成22年度学術情報基盤実態調査」より)




<子どもの読書活動推進計画>



☆「子どもの読書活動の推進に関する法律」に基づき、政府および自治体は

子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画を策定することが規定されている。

第2次、第3次の計画が順次策定されているが、

都道府県に比べ、市町村では策定が進んでいない。



(2)読書活動の現状




<全体>

☆総務省「社会生活基本調査」および毎日新聞社「第64回読書世論調査」より

データ掲載。

しかしこれを見るだけで読書状況が危機なのかどうかはいまいちわからない。

活字離れを実感するのは「本を読む量や時間につき71%が以前より減ったと回答。」くらい?




↓データ↓


平成18年 1年間に「趣味としての読書」を行った人(10歳以上) 41.9% (第3位)

※50歳以上は年齢が高いほど割合が低い

※どの年代でも女性の割合が高い

※昭和61年から5年ごとの調査結果(15歳以上)は

おおむね40%台の前半から半ば程度で推移している。

(平成8年に37.6%を記録)

(総務省「社会生活基本調査」より)





平成22年 書籍を「読む」人 48%(前年同)

雑誌を「読む」人 58%(前年比 3%減)

1日の平均読書時間 書籍 約26分 ・ 雑誌 約24分(前年より3分短い)

1ヶ月間の読書量

10代後半2.2冊 20代2.3冊 30代1.6冊 40代1.4冊 50代1.4冊 60代1.3冊 70代以上1.0冊

本を読む量や時間につき71%が以前より減ったと回答。


(毎日新聞社「第64回読書世論調査」(平成22年9月実施)より)




<小・中学生>




☆文部科学省「平成22年度全国学力・学習状況調査」よりデータ掲載。

中学生の数値は本を読まない層が多い印象であるが、 

これを見ても活字離れか進行しているのかどうかわからない。


↓データ↓

平成22年度 普段(月~金曜日)読書時間/日 

小学生
「10分以上、30分より少ない」26.5%(最多)

「2時間以上」6.4%

1日10分以上  62.7%




中学生

「全くしない」37.6%(最多)

1日10分以上  49.4%



(文部科学省「平成22年度全国学力・学習状況調査」より)



<高校生>


☆OECD「学習到達度調査(PISA)」2009年調査からのデータが掲載されている。

これは他国との比較ができる点で、より参考になるとは思われるが

必ずしも日本の高校生が読書をしないという傾向というわけではない。



↓データ↓

2009年 「趣味で読書をすることはない」 44.2%(OECD平均37.4%)

※一方で、「読書は、大好きな趣味の一つだ」などのように

本や読書に肯定的な項目に該当すると回答した生徒はOECD平均を上回っている。

※趣味の読書時間と読解力の点数の相関関係は、1日1ー2時間の読書時間までは見られるが

それ以上になると逆の相関になっている。



(OECD「学習到達度調査(PISA)」2009年調査より)




<大学生>




☆ずいぶん扱いが軽い気もする。

この「読書」は、娯楽の読書のみなのか、学習のための読書も含むのか

それにより意味は異なってくる。


↓データ↓

平成22年 平均読書時間 「冊子」(紙の印刷物)27.0分

「電子書籍」(PCや携帯端末で読む書籍)6.1分で
全く読書をしない人 「冊子」37.7%

「電子書籍」77.6%、

双方とも 33.8%

(全国大学生活協同組合連合会「学生の消費生活に関する実態調査」(平成
22年10月実施) より)





(3)読書環境の変化の動向、特にICTの影響




☆昨今の状況をまとめている。

デジタル・アーカイブに関しては無料公開のものが多く

利用が増えることそのものが公全体の利益となると考えるため

広報・周知が必要である。





・ケータイ小説

読み手=書き手 という新たな形態の誕生。

読書への入口となりうる。




・電子書籍/デジタル・アーカイブ



課題も多い中、出版側の経費削減・絶版の回避、アクセシビリティ向上などのメリットも。

図書館での貸出やデジタル・アーカイブの取組もある。

国立国会図書館でも1968年までの出版物のデジタル化およびオンライン流通電子出版物の収集に取り組んでいる。

※平成21年に著作権法改正され、資料保存のため必要が無くても納本後直ちに資料の電子化が可能になり

平成21年度 補正予算約127億円 22年度補正予算約10億円が措置された。

平成22年11月には「電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議」が設置された。(文化庁)

調査によると一般市民の認知度やアピール度は低いようだが、良い点を生かすべく検討・努力が必要。

↓データ↓

「電子端末やパソコン、携帯電話などで本を読んだことがある」10%

「読んだことがない」人のうち

「電子端末やパソコン、携帯電話などで本を読んでみたい」人21%

※毎日新聞社調査(平成22年9月) より




第3章人の、地域の、日本の未来を育てる読書環境の実現のために
~3つの提言~





提言1 読書で人を育てる、「読書を支える人」を育てる

① 自治体の首長や議員の理解を得る




読書に関する施策の重要性を理解を促し

適切な人材の配置や研修による人材の育成が行われるようにする




② 司書や司書教諭等の読書に関する専門的職員を充実する




読書のアドバイザーとなりうる優秀で意欲的な人材(図書館の司書、学校図
書館の司書教諭、学校図書館担当職員(いわゆる「学校司書」)など)の確保。

そのためには、人材の教育と、専任の司書・司書教諭確保のための制度が必要。


学校においても読書に関する教育の導入がのぞまれるため、
教員養成課程にも、読書やリテラシーに関する科目が導入されるとよい。



③ 地域で読書に関わるすべての人を支援する




図書館が中核となり、地域で読書サークルなどの活動に取り組む人々を支援する。

独立行政法人国立青少年教育振興機構の「子どもゆめ基金」の活用。

司書・司書教諭・教員以外にも本に関わる人材の資質向上をはかるための

教育・資格制度の充実。




提言2 住民参加で自治体ごとの「読書環境プラン」(仮称)を策定し、実現する

① 市町村が、主体的に、それぞれの独自性を活かして取り組む




各自治体が中心となり、「読書シビルミニ マム」」(読書生活保障の最低基準)、

およびその実現のための「読書環境プラン」(仮称)を策定する。

たとえば住民の読書へのアクセス方法や、その実現のための人材配置等につき明確化。

その実現のためのプランを策定し、評価・見直しを行う。




② 学校や保育所、児童館、公民館等の読書環境を充実する




幼少期からの豊かな読書体験を保障する場、さらに

読書を介し親子をつなぐとしてこれらの場の活性化をのぞむ。

学校では、読書を通じた子どもの教育の中核となり、

「言語活動」のみならず、コミュニケーション、思考、図解、企画・立案などの

力をのばすべく、人材や図書、その他の資料の整備に努める必要がある。

学校図書館標準達成のため、学校図書館図書整備5か年計画に基づく地方交付税措置の

有効活用がもとめられる。




③ 図書館の機能強化を図る




図書館が中心となり

障害を持つ人や 高齢者を含めたすべての住民の読書環境を整え

さらに課題解決へのアクセスポイントともなることがもとめられる




④ あらゆる世代の住民が参画し、議論し合う




住民による議論への参画や、ボランティアとしての参加が期待される




⑤ 国は自治体の取組を強力に支援する




学校教育における読書活動の意義等についての周知や

学校図書整備のための予算措置、図書館の設置・運営のための基準整備、

優れた取り組みの顕彰・周知などにより、取り組みを支援する




提言3 読書の新しい可能性や将来像を構想し、推進するためのプラットフォーム(基 盤となる「場」)をつくる

① 本を起点としたコミュニケーションを活発化させる




読書体験を共有できるような、読書会、読書コンクールなどのイベントの開催、

図書と人との出会いの可能性を広げるための

図書検索システムの開発・司書の選書能力の向上・図書館での配架方法の工夫

などがのぞまれる。




② 読書に関する関係者の力を結集したプラットフォームをつくる




各分野の専門家の知見からの読書の将来像の構想、研究、

そしてその成果の発信、活動の評価などを一元的・継続的に行うことができ

現場と電子ネットワークの両者をつなぐような、プラットフォームが望まれる


___



末尾に、「資料編」として各関係法令・文書等の抜粋、「データ集」として

根拠となった各調査結果などが掲載されている。





読書に関する調査に関しては、各調査により、読む対象・目的などにより

こまかな定義が異なると考えられるので、元データを参照することが必要である。

一般的に「活字ばなれ」とされる状況については、それほど顕著に数字にあらわれているとは

思えなかった。

しかし読書に関する現況について、

もともと知りたかった「読書推進の根拠となるもの」も含め、

多く知ることができ参考になった。

































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